『PTU』

香港の夜の飲み屋で一人の若い男が食事をとろうと机についている。そこにマフィアのボスの息子マーと四人の仲間が入ってくる。先ほどの男の隣のテーブルを案内された五人は、そのテーブルが気に入らないのか、男が座るテーブルに移動してくる。マフィアに恐れをなした男は五人が最初にいたテーブルに移動する。そこに組織犯罪課の刑事サァ(ラム・シュー)が入ってくる。彼は嫌がらせのように、マフィアのいるテーブルに座る。マフィアは刑事を避けるため、元いたテーブルに移動する。若い男は更にテーブルではないカウンターへ移動する。ここでテーブルの交換が行われ、交換の主題系が動き始める。続いてマーの携帯が鳴り、その後4人の部下に指示を与えると彼らは席をたつ。今度はサァに電話が入り、警察の指示を受けた彼も出て行く。更に若い男の携帯が鳴る。一般人らしからぬ「了解」の言葉とともにこの男は背後から刀でマーを突き刺す。ここに模倣の主題系も開始される。「交換」と「模倣」の主題系に参加したこの男は、殺し屋として物語にも組み込まれることとなろう。
この殺人と同時並行的にサァはマーの部下に襲われ、拳銃を盗まれることとなる。その際、車にペンキをかけられたサァは自らの拳銃の代わりに入手したモデルガンに色をつけ、この動作を模倣することとなろう。その後、マーの殺人現場にかけつけたサァは、証拠物件となるマーの携帯にかかってきた電話を聞くために、その携帯を拝借するが、自分の携帯と間違えて戻してしまう。サァの拳銃探しに協力することとなるPTU(機動隊)はマーの手下の情報を聞き出すために、路上とマーのアジトで二度足を使って相手を脅すことになろう。一方、マーの殺人事件を追うCID(特捜課)は動作不審なサァをマークし始める。一方、マーの父ハゲと対立するギョロメはサァに助けを求め、ハゲは盗まれた拳銃と引き換えにギョロメをおびき出すことをサァに迫る。公衆電話から電話をするサァを、リュックを背負った男が模倣し誰かに電話をかける。この男も物語に参入するのであろうか。ラストで広東道(カントンロード)へと進む行動を全ての登場人物が模倣し始める時、「模倣」の主題はどのような結末をとるのであろうか。
深夜の香港という猥雑な舞台を、包帯をした鬚面のサァが黄色いペンキをかけられた車で走り回るというむさ苦しい映画だが佳作。