『ブレイキング・ニュース』

アパート群と青空が仰角でとらえられ、その後角度を下げていくカメラは一つの通りを映し出す。鬚面で長髪の一人の男がそこを歩いている。その男があるアパートの階段を登っていくと、カメラはクレーンでアパートの外側から上がっていき、一つの部屋が捕らえられる。ドアがノックされ先ほどの男が中に入ってくる。強盗団と思しき男たちが、なにかの準備をしており、ドアから外へと出始める。その中の一人の男が窓から外を眺めると、カメラはアパートの壁伝いに降下し、一階の庇から落ちた新聞紙を追う。新聞紙は一台の車のフロントガラスに落ち、中の人物がそれを拾う。それは待ち伏せしている刑事である。一回転して向きを変えたカメラは階段から降りてきた強盗団を映し出す。彼らが乗車するための車がそこへ来るのだが、一方通行違反だとして、別の警官達がそれを咎める。車の周りを旋回したカメラは、近所の人が喧嘩を始めた様を映し出す。一人の警官がそちらに気をとられている隙に、もう一人の警官が車の中の不審なバッグを問いただす。その瞬間ギャングの拳銃が火を噴き、二人の警官は倒される。待ち伏せしていた刑事達も発砲し、激しい応酬となる。左右に首を振るカメラは、やがてクレーンで再び上昇して、アパート二階から発砲するギャングの一人を捕らえる。この男がここから通りに置かれた箱へと飛び移り、さらに通りへと降りる様をカメラは追っていく。ギャング達は新たに来た警察の車を奪い、逃走していく。ここではギャングを俯瞰で捕らえていたカメラが降下しつつ、後退していき最後はロングショットとなる。ここまでが8分の素晴らしいワンショット・ワンシークエンスで撮影されている。
ギャングに銃を向けられた一人の警官が手を挙げて命乞いをし、それを報道カメラが撮影したため、香港警察は面目を失うこととなる。指揮官の任をまかされたレベッカ(ケリー・チャン)は、PTUにワイヤレス・カメラを装備し、犯人逮捕の瞬間を撮影して、警察の名誉を回復しようとする。レベッカの命令を聞かず暴走するCID(重犯罪特捜犯)の警部補チョン(ニック・チョン)の行くところには、必ずギャングが現れる。それは彼の犯人調査の嗅覚がいいというより、犯人グループと似ていることによる。犯人のアジトで見つかった焼き芋を彼も食っているのだ。チョンは犯人の潜むアパートを見つけるのだが、ギャング団はある一室の住民を人質に取り篭城する。ここでひょんなことから別の殺し屋も合流して立て篭もることになる。ギャングと殺し屋は同じ食事をすることにより、連帯を強めていく。一方警官と報道陣に配られる弁当は白々しいものとしてうつる。メディアを使ったレベッカとギャングのボス、ユアンリッチー・レン)の虚々実々の駆け引きも素晴らしい。ギャング団の影とも言えるチョンも、アパートのいたるところで熾烈な銃撃戦を繰り広げる。警察側のメディア戦略の部分のみ弛緩しているが、それが空転しているのを示すためであろう。脚本の見事なテンポのいい傑作。